灌仏会と花祭り

日本の寺では4月8日がお釈迦様の誕生日ということで灌仏会(くわんぶつえ)という行事です。一般には花祭りと呼ばれています。他にも降誕会(ごうたんえ)、仏生会(ぶっしょうえ)、浴仏会(よくぶつえ)、龍華会(りゅうげえ)、花会式(はなえしき)という別名もあります。なぜ灌仏というかというと、様々な草花で飾った花御堂(はなみどう)の中で、甘茶を満たした灌仏桶の中央へ安置した誕生仏像に柄杓で甘茶を掛けて祝うからで、釈迦生誕時に産湯を使わせるために9つの竜が天から清浄の水を注いだとの伝説があるからです。灌は灌漑の灌で「水を注ぐ」という意味の漢字です。便秘の時のカンチョウの漢字が灌腸です。甘茶も砂糖を入れたお茶ではなく甘茶蔓(あまちゃづる)という植物の葉を煎じたものです。一時期健康茶としてブームにもなりました。ドラッグストアでは今でも売っています。

肝心のお釈迦様の誕生日ですが、諸説あってはっきりしていません。日本のような北伝仏教では旧暦である中国暦で4月8日としているので、そうなっているだけで、南アジアの南伝仏教ではインド歴の2月15日のウエサク祭がそれに当たりますが、その日も宗派によって異なるようです。何年のお生まれなのかもはっきりせず日本では一応、西暦に換算して紀元前463年生まれ~前383年入滅ということになっています。南伝仏教ではもう少し早いそうです。ざっくりキリスト様の400年前ということです。ちなみにユダヤ教のモーセが紀元前13世紀、イスラム教のムハンマドが6世紀ですから、各宗教の成立した時期は歴史的に見るとかなり年代が違います。

日本のお寺ではほぼ新暦(グレゴリオ暦)の4月8日に灌仏会を行いますが、明治5年以前の長い間、旧暦の行事でしたから、明治以降、仏教の力が相当衰退したことがこれだけでもわかります。明治時代の廃仏毀釈によってかなり仏教が衰退しましたが、太平洋戦争後、GHQによる農地解放により所領がなくなり、寺院は経済基盤を失って境内の切り売りや幼稚園経営など、一部は観光産業になってしまい、「葬式仏教」と揶揄されるような現在の姿になりました。仏教徒にとって灌仏会をキリスト教暦で祝うなど屈辱的のはずですが、寺自身がそう思っていないことの方がさらに事態は深刻だろうと思われます。明治時代のような宗教弾圧はないので、宗教行事のような伝統的行事は旧暦で行うのが正しい道だと思います。

不思議なのは天気予報のような科学的番組に、旧暦である二十四節気のことが時々出てくるのも変な話です。日本的融通無碍といえばそれまでですが、何もかも曖昧にすればよい、ということでもないので、灌仏会はせめて旧暦でと思う次第です。

蛇足になりますが、誤って物が壊れることを「お釈迦になる」といいますが、語源は炙り過ぎで鈍った金物を「火が強かった=しがつよかった」→「四月八日だ=しがつようかだ」→「釈迦の誕生日=しゃかのたんじょうび」というように江戸の鍛冶職人の符牒が広がったのだそうです。この手のダジャレは落語によく出てきます。「子曰く(しのたまわく)」が「火の玉を食う」と洒落のめす噺が「明烏」の冒頭に出てきます。本当に江戸職人は不敬です。

灌仏会