藪入り

1月16日は藪入りです。藪入りという表現はもう死語になっています。藪入りを知っている人でも1月16日と聞くと違和感を持たれる人がいると思います。藪入りは1月16日と 7月16日の年2回ありました。この日から奉公人は数日間のお休みをもらって実家に帰るのです。今では帰省は夏のお盆と冬の年末年始ということになってしまいましたが、新暦8月15日前後は旧暦の7月16日前後に当たるのでシフトしたのだと考えられます。

昔の奉公はお店(たな)に住み込み(寝食付き)で雇われ、給金はお小遣い程度の丁稚から始まり、次第に腕が上がるようになって、手代や番頭に出世し、嫁をもらったりすると通いになって、別店(支店)を持たせてもらう、というような人生が商人(あきんど)の基本でした。そのため主人と奉公人は家族のような関係だったわけです。

こういう雇用制度は商家だけでなく、職人や寺や神社でも普通のことでした。西洋では身分制度が厳しく、奴隷制度もあり、身分が変わることはほとんどない固定的な封建制度でしたが、日本は奴隷制度はなく、身分制度はあっても、その中での出世の機会もあったわけです。この家族的雇用関係はつい最近まで企業にも受け継がれていたのですが、近年、労働者意識が雇用者、被雇用者ともに変化し、賃金による雇用関係に限定されるようになりました。

藪入りには丁稚は実家に帰る時に家族にお土産を買って帰るのですが、それで有名になった「でっち羊羹」です。発祥は近江だとか。今東京で有名な羊羹は練羊羹と呼ばれる小豆や砂糖や黒糖をふんだんに使って寒天で固めるものですが、関西の丁稚羊羹は寒天はなくこし餡に少量の砂糖と小麦粉で練った皮を蒸しあげたものを竹の皮で包んだ羊羹です。丁稚の少ない給金でも買えるように安価にするためだったそうです。越前(福井県)地方では冬に水羊羹を食べる習慣があり、それも丁稚羊羹と呼ぶことがあるそうで、それは藪入りと関係があるのかもしれません。

「藪入り」という落語も有名です。この落語のマクラに「昔は正月と盆の16日に奉公人が休暇をもらって帰省する藪入りというものがございました」というのがあります。この噺の中に奉公に出した子供の帰省を待つ親の心情が描かれています。この人情噺も元は「お釜さま」という艶笑噺でしたが、艶笑ネタが禁忌となって改作が行われて人情噺になったそうです。サゲが釜(上)から鼠(忠)になったのはペストの流行と関係があるとの解説なので近代の改作なのがわかります。釜はオカマの意味です。LGBTが公認の現代なら原作も問題ないのかもしれませんので、復刻も期待したいところです。なぜ藪というかは諸説あるようですが、藪の多い田舎のことを指すといわれています。

丁稚羊羹